とりとめない文章

気になった作品の感想を保管しています。他のとりとめないことを書いたりもします。

原稿用紙10枚ぶんの愛

あり得たかもしれない未来についての話。

 

全てを諦めかけた僕だったけれど、何とか勇気を取り戻し、元の生活に戻る。

 

突然の失踪で迷惑をかけた人のもとを回り、とにかく謝り続ける。そうして簡単に許してくれる人もいるだろうし、そうでない人もいるだろう。

 

家庭のほうはどうだろう。きっと劇的な変化はないだろうけど、必死にぶつかった結果、多少やりやすくはなるかもしれない。

 

そういうことをして日々を過ごしながら、また僕は夜にあなたと電話をする。今日はこういうことがあった、誰に謝った、誰が許してくれた、そういうことを話して、あなたは叱責してくれたり、あるいはよかったねと安心する言葉をかけてくれるかもしれない。僕についての恨み口も多少ぶつけてくるだろう。そうして僕は自分のしてしまったことを見つめることができる。反省をして、とりあえず今は生きる目的もないけれど、この人のために生きてみようと、また謝って、好意と償いのために生きようとする。またあなたの側の問題についての話題になって僕はそれでもきっと大丈夫だよと励ますだろう。

 

君はそうした後に僕に会ってくれるだろうか。これは僕の予想なんだけど、君はそう簡単には僕には会ってくれないような気がする。おそらく、君はそういう欲求を持て余しているけれど、それを僕にぶつけて解決することは結局しないんだろうなと思う。きっと一緒にカラオケなんかに行くのが関の山だろう。

 

そうした日常をしばらく送る。そうだな、半月くらいは続くだろう。あるいは1ヶ月、2ヶ月くらいはその繰り返しかもしれない。

 

免許合宿は山場だな、そのときの君は多分、溢れんばかりの自分の感情をコントロールするのに四苦八苦し、環境の変化とか色んなことがあって、とにかく疲弊するもんだから、僕のほうも気張って、なんとか元気にさせようと電話口であくせくするんだろうなと思う。

 

とにかくそうしてしばらく経って、君に大切な相手ができる。今の君には信じられない話かもしれないけれど、それはそうなる。バイト先だとか、サークルだとか、多分その辺りだろう。僕は勿論君に好意を持っているから、それを聞いて少なからず残念に思うだろう。いやでも前からその兆候はあったからそんな気はしてたよ、と笑って、幸せになれよと言うだろう。勿論僕は好意を捨てきれないから、密かに君を思い続ける。付き合って間もない頃というのは往々にして幸せの絶頂にあるもんだから、君はそっちに釘付けになって、僕に構ってくれることも減るだろう。相手に悪いからと多少、距離を置こうとするかもしれない。ああ、と僕は寂しく思って、けれどもあなたが幸せになるのならそれ以上に僕の人生にとって喜ばしいことはないと思って、おそらくそこで絶望することもないし、何かが嫌になるというわけでもないだろう。実は僕は、そういう好意の持ち方に慣れている。相手を傷付けることもないから、いっそそういう好意の方が幸せかもしれないと思うこともあるくらいだ。

 

けれどもその関係もきっと長くは続かない。君には悪いけど、その相手とは君はそんなに上手くやれないと思う。付き合い始めて、早くて1ヶ月、それか3ヶ月くらい経って、何が問題になるかまでは分からないけれど、とにかく2人の間に避けようのない大きな問題が存在していることに君は気が付く。

 

そして君はまた僕に相談してきてくれる。僕はやはりそれを嬉しく感じてしまうだろう。泣き続ける夜もまたあるかもしれない。僕はやっぱりいつかと同じようにその涙は拭ってやれなくて、気休め程度の励ましと空振りする好意をぶつける。それが何とももどかしくて、悲しい悲しい虚しいと言うあなたを、どうして自分は幸せにしてやれないんだろうと自分をふがいなく思うだろう。

 

またそこで僕とあなたは間違えようとするかもしれない。そして寸でのところでまたあなたが正気を取り戻して、僕はやっぱりなと思う。それでいいんだと安心する自分もいるだろう。そこにまた惚れる。

 

そういう状態が何週間が続いたあとで、君と君の恋人は別れる。君はまたフラれてしまうのかもしれないし、あるいはそれまでの人生で得た勇気を振り絞って自分から振ることができるかもしれない。そこまでは分からない。けど、どんな別れ方にせよ、またあなたはそれを前の比ではないにせよ辛く思って、想い出に苦しまされ、自分の不出来を責め立てるだろう。

 

そこでまた僕を頼ってくれるだろうか、そうしてくれたら僕は嬉しい。自分に見合う相手がいないと、あるいは相手に見合う自分になれないと、そんな自分は嫌いだとあなたは言う。失恋とは、その人を弱らせてしまうから。そこで僕はまた君が立ち直るサポートをする。健気なものだろう?僕はずっと好きだよ、とそれがどれだけの効力を持つか分からないけど、僕にできることは言葉で君を勇気づけることだけだから、それを必死にしようとする。また同時に良い機会が来たと君を口説こうとするだろう。

 

しかし君はおそらく結局僕になびきはしないんじゃないかと思う。多少揺れてくれることはあっても、こちら側には倒れてはくれないんじゃないかな。

 

けれど、もうこの頃になると僕もそういう関係でいることに慣れてきて、好意を受け取ってもらえなかったとしても、むしろその関係を心地よく捉え始めるだろう。それはきっと君の方もそうだろう。

 

もちろん僕が君に好意を持っていて、それを成就させたい思いは常にあるし、それをぶつけることも止めないから、表面上の関係はずっと変わらないだろうけど。

 

そうして過ごしていると、多分そろそろ就職を考えて、そのために色々準備しなきゃいけない時期になる。恋愛だのどうのという時期ではなくなる。ああ、言っていなかったけど僕の予想ではきっと僕と君は結局、違うゼミに入るだろうと思っている。けどそのおかげで僕らは時間を共有し過ぎない関係でいられて、その日あったことをたまに夜電話で話す関係も継続させられていることだろう。

 

君はその頃にはもう実家暮らしに戻っていて、親のことを考えたりして、強い活力を得られるだろう。やりたい仕事も強い意志によって決められるだろう。そこまで決まって環境が整備されたらもう、君は無敵だ。努力の甲斐あって、やりたい仕事の内定を簡単にとってくるはずだ。あるいはもしかしたら本当に難しい、倍率の高いところを志望して、多少苦しい思いをするかもしれない。そのときは僕も少し助けてやって、まあその助けが本当の支えになってたら嬉しいんだけど、そしてやっぱり苦しみもがいた後に、その最後には君は就きたい仕事にちゃんと就けるだろう。

 

僕のほうはどうだろう、きっとまたのらりくらりとやっているだろう。仕事には就くだろうが、そこまでやりがいもない日々を過ごすだろう。

 

そうして二人は社会人になる。君は元の街を離れるだろうし、僕も多分そうするけれど、君を追って同じ街に住むなんてことまではしないはずだから、離れた距離のまま二人はいるだろう。

 

社会人になって、最初の3ヶ月くらいはお互いに社会という理不尽な波に揉まれて、苦しい思いをたくさんするだろう。君は果たしてその時まで愚痴をこぼし相談する相手として僕を選んでくれるだろうか、そうだったらいいんだけど。君に相談されて、君の問題について考えているとき、それが役立つものだと思えたときに、僕は自分を価値あるものだと少しだけ思えるから。

 

そうやって二人は仲良く続いていく。たまにご飯を食べに行ったり、お互い相手がいなくて、そういう気のある相手さえいない、けれども時間が空いている、そんなときには旅行に行ったりもするかもしれない。

 

僕はそういう関係を本当に幸せだと考える。この人がいてよかったと幾度となく、繰り返し思う。

 

横顔を盗み見ているのがバレて、「何?」と不思議そうに首をかしげられたり、眠そうにこくこくと船を漕ぐあなたの頬を突っついて、化粧が落ちると不機嫌そうにされたり、距離を詰めようとし過ぎて煙たがられて、距離を離しすぎて少し拗ねられたり、少しギクシャクしたり、やっぱり笑い合ったり、怒られたり、許したり、責めたり、優しくしたり、笑わせたり、笑われたりするんだ。

 

そういう未来の果てに、君は生涯を添い遂げる相手を見つける。それは僕じゃないだろうけれど、きっと僕以上に君を大切にしてやれる、本当に出来た人間で、君とこれ以上ないほどに相性の良い人間で、だから僕は不思議とそんなに悔しく思わないんだ。君が幸せになれるという証明書をようやく見つけられたような気がして、少し心が休まるんだ、安心できるんだ。ほらな、幸せになれたじゃないか、と。君は大丈夫だったし、これからも大丈夫なんだよ、と。

 

君はその時に、僕のことを伴侶に紹介してくれるだろうか。大切な友人なのだ、と胸を張って紹介してくれるだろうか。そうしてくれたら、いいと思う。僕も紹介されるだけに見合う人間でいようとしているだろうから。

 

これは全部、たらればの話。あり得たかもしれない、あり得るはずもなかった未来の話。現実ってやつはいつも理不尽で予測不能だから、どうなるかなんて分からないけどさ、けど、僕はこういう未来が待っていたんじゃないか、って、こういう未来が待っていたら、それでいいなと思っている。

 

けれども本当に伝えたいことは、そんなことじゃなくて、君が大丈夫だってことなんだ。

 

心ない馬鹿に傷付けられることもあるだろう、落ち込むこともあるだろう、立ち直れないかもって

それでも、大丈夫さ。上手く言えないけど、そう思ってほしいんだ。

 

『あなたが自分を愛せないと言うんなら、それでも僕を好きだと言ってくれるのなら、僕の愛したあなたを好きになってほしい

 

大丈夫、僕の愛は永遠に閉じ込めたから、永遠に、未来永劫好きだから

馬鹿げたことをしてるんだよな、それはわかってる、分かってるんだけど、そういうことにしておいてくれないか

 

自分の重すぎる愛に辟易とするあなただけど、ほら、ここにもっと重たい愛を持つやつがいるだろう?

これよりはマシさ、君の愛なんてまだまだ軽い だから気に病むことはない、安心してほしい』

 

君のためには生きられないから、君のために言葉を綴ります。こんなやつのこと、すぐ忘れてほしいけれど、こんなやつでも与えられたものがあると言うんなら、それは覚えてほしいとか言わないけど、それだけ、君にとって糧になるものだけを、どこか体の奥底かどこかで持っていてほしい、君は大丈夫だからさ。